EC事業およびマーケティングの責任者を務める皆様にとって、「いかに新規顧客を獲得し、LTV（顧客生涯価値）を最大化するか」は永遠の課題です。特に、飽和しつつある既存ECモールやプラットフォームとは一線を画す、新しい販売チャネルの開拓は急務と言えます。

その中で、ショート動画プラットフォームとして急速に購買の場へと進化している「TikTok Shop」が、2025年8月に出品可能商品カテゴリーを大幅に拡大したことは、EC市場における大きなニュースの一つです。これまで参入を見送っていたジャンルの事業者様にとっては、まさに市場を先行して獲得する絶好のチャンスが到来しました。

本記事では、このTikTok Shopのカテゴリ拡大を事業機会として捉え、EC担当者が今すぐ採るべき戦略、そしてCVR向上に直結するコンテンツ設計の秘訣を、実務経験に基づいた洞察と共にお届けします。

TikTok Shop「カテゴリ拡大」がEC市場にもたらす事業機会

TikTok Shopの出品ポリシー更新は、単なる商品ジャンルの追加ではなく、EC事業者が長年培ってきた専門性の高い商品群を、よりエンゲージメントの高いSNSプラットフォーム上で販売できるようになったことを意味します。この変革がもたらす事業機会と、それに伴う課題を整理します。

追い風となる7つの「出品可能商品」新ジャンル

今回、新たにTikTok Shopでの販売が可能となったのは以下の7つのカテゴリーです。

1. 生鮮食品・冷凍食品
2. コンタクトレンズ・カラーコンタクトレンズ・ケア用品
3. ペット用グルーミング用品（口腔/眼/耳ケア）
4. 観葉植物・生花・種子類
5. 自動車・バイク用交換部品
6. 医療用品（脱毛機、歯列矯正アクセサリー、睡眠・いびき対策用品など）
7. 物理SIMカード

これらのジャンルは、従来ECモールで競争が激化していましたが、TikTok Shopという新しい土俵では「先行者利益」を享受できる可能性を秘めています。

なぜ今、TikTok Shopへの参入を検討すべきか

TikTok Shopが他のECプラットフォームと決定的に異なるのは、ユーザーが「買い物をする場所」としてではなく、「コンテンツを楽しむ場所」として訪れている点です。

• 動機付けの強力さ: 商品の検索から入る従来のECに対し、TikTok Shopはショート動画やライブ配信で偶発的に商品と出会い、その魅力に強く動機付けられて即購入に至ります。特に食品のように「美味しそう」「試してみたい」という衝動的な感情と相性の良いカテゴリーは、極めて高い成果を発揮します。
• 初期市場の優位性: ポリシーが変更されたばかりの今、該当カテゴリーを扱う競合他社の参入はまだ限定的です。いち早く出店し、TikTok Shopのアルゴリズムに適合したコンテンツを投下することで、短期間で市場シェアを獲得し、ブランドの認知度を一気に高めることが可能になります。

CVR向上とLTV最大化を実現する「新カテゴリー」別コンテンツ戦略

TikTok Shopにおける成功は、単に商品を出品することではなく、「いかにコンテンツで商品の魅力を深く伝えるか」にかかっています。従来の静的な商品ページではなく、動画とライブ配信を軸としたCVR向上とLTV最大化のための具体的な戦略を解説します。

ユーザーの購買意欲を刺激するカテゴリー別訴求方法

ECにおいて商品の魅力を最大限に引き出すためには、実体験に基づいた「人間味のあるコンテンツ」と、その拡散力を最大化するインフルエンサーとの戦略的連携が不可欠です。

生鮮食品・冷凍食品

訴求方法

生鮮食品・冷凍食品はレシピ紹介や調理の実演が効果的で、さまざまなレシピのバリエーションを紹介するとリピート購入につながりやすくなります。「忙しい日でも短時間で調理できる」などメリットも訴求しましょう。

動画やLIVE配信では構成を「調理実演→試食→感想→購入訴求」とすることで、食べ方のイメージが湧きやすく、その上映像にも動きがつくため、再生数やCVRの向上に期待できます。

TikTok Shopと食品ジャンルは相性良し

2025年8月度の売上ランキングを見ると、食品ジャンルの商品が2位に食い込んでおり、その他、麻辣湯やグミの福袋も売上を伸ばしており、TikTok Shopとの相性の良さが伺えます。

TikTok Shopでの売上アップにはクリエイターコラボの活用が不可欠ですが、食品はどんなクリエイターでも紹介しやすいため、クリエイターコラボが進めやすい利点もあります。

また国内のEC流通額の20％を食品が占めていることからも、TikTok Shop上でも更に売上が伸びることが予想されます。

2025年8月の売上ランキング（LIVE＆動画）

一次産業と相性良し

TikTok Shopは動画とライブ配信でブランドや商品を訴求できるのが特徴ですが、農作物の収穫の様子や魚介類をさばく様子、製造工程の動画は非常にインパクトがあります。

「普段は見れないけど気になる」コンテンツは再生回数が非常に伸びるので、積極的に投稿しましょう。

『George ジョージ』

ミシュラン2つ星レストランで料理長としての経験を持つ料理系アカウントです。手元を固定カメラで映しテンポよく調理の様子を伝えています。動画とリンクした解説により焼き加減や調味料を加えるタイミングなど注意すべきポイントが明確です。

『農家の孫まっち』

28歳で脱サラして玉ねぎ農家を始めた女性のアカウント。一般人が普段は見る機会の少ない玉ねぎ収穫の様子や、他の農家との交流の様子を動画にしています。

コンタクトレンズ・カラーコンタクトレンズ・ケア用品

コンタクトレンズは装着前後の様子がわかるビフォーアフター動画が効果的です。特にカラーコンタクトレンズの場合、レンズの色や装着後の目元、顔全体の印象が重要ですので、カメラを目元に寄せたり顔をいろいろな角度から映したりするとユーザーが雰囲気をイメージしやすくなります。

『華世』

カラコンやコスメを紹介しているアカウントです。カラコンの紹介動画ではランキング形式でおすすめ商品を紹介しています。目元のアップと顔全体のカットを映しているのでカラコンをつけたときの見た目や雰囲気がよくわかります。「毎日使いたくなる」など、商品の魅力が伝わる言葉選びも参考にしたいポイントです。

ペット用グルーミング用品 – 口腔/眼/耳ケア

ペットが出てくるコンテンツはSNSとの相性が抜群で、視聴数も伸びる傾向にあります。ペット用品を紹介するときは、必ずペットとセットで訴求しましょう。

そうすることで、視聴者はかわいい犬や猫の動画をみながら、自然と商品を知ることが出来ます。

また、「歯垢や歯石をとることで歯周病予防につながる」など具体的な効果も伝えましょう。

ペットの飼育頭数は減少傾向にある一方、消費額は毎年伸び続けており、消費者がお金をかけやすい領域と言えます。ペットカテゴリはTikTok Shopで非常に伸びるポテンシャルを秘めています。

『ギズモと琥珀』

猫たちのシュールな日常を紹介するペット系アカウントです。ペット用歯ブラシや歯磨きペーストを紹介した動画は、ブラシを拡大したりペーストの香りを解説したりと丁寧に作られています。

観葉植物・生花・種子類

観葉植物・生花・種子類は、育て方や部屋への飾り方を解説する投稿がおすすめです。室温や日照条件、水やりの頻度など植物の育成に必要な情報を伝えると初心者も購入しやすくなります。

また、成長の過程をコンテンツにするのも有効です。例えば、一方は肥料を入れて、もう片方は肥料無しで育てた様子を動画にすると、効果を視覚的に訴求できます

ライブコマースでは植え替えなど手間のかかる作業を解説するのも効果的です。手順や重要なポイントをしっかりと伝えて、適宜視聴者の質問にも答えましょう。

『轟 瑛二 / 植物系インフルエンサー』

観葉植物の育成・栽培方法などをユーモアたっぷりに解説するアカウントです。初心者用にポイントを絞った投稿から経験者向けのおすすめ商品紹介など幅広いコンテンツが魅力です。

ライブコマースの伸ばし方にお困りの事業者様は以下の記事も参考にしてください。

自動車・バイク用交換部品

自動車・バイク用交換部品は、実際に部品を交換している様子を動画にしましょう。必要な道具と手順を解説することで交換方法がイメージしやすくなります。特に初心者は手順を動画で確認しながら作業をするので、再生数と視聴完了率の伸びに期待ができます。わかりづらい部分は図解を挟むとより効果的です。

『べんぞー／バイクネタ専門家』

バイクとバイク用品の紹介に特化したアカウントです。バイカー目線からの商品紹介や、あるあるを交えた動画投稿が多く、バイカーに刺さる信頼性の高い投稿が魅力です。

医療用品

医療用品としては脱毛機、歯列矯正アクセサリー、睡眠・いびき対策用品、呼吸補助器具などが販売できます。購入につなげやすい方法としては、正しい使い方をわかりやすく解説したり、ビフォーアフターの動画を見せたりすると効果的です。動画・配信コンテンツでは「困りごと提示→共感→使い方」の構成を意識すると効果的です。「いびきでお困りの方はいませんか？」など、冒頭で悩みに寄り添うような語りかけを行い、対象ユーザーをひきつけましょう。

『しょちゃん【美容・コスメ】』

美容関連の投稿を上げているアカウントです。動画内では、脱毛機の使用前後の様子を比較して、効果を可視化しています。また、細かな機能も分かりやすくキャッチーに訴求しています。

物理SIMカード

物理SIMカードは月額利用料金や容量などの基本情報は漏らさずに記載しましょう。料金は表を用いて年間でいくらかかるのか、といったように購入の判断材料となる投稿が効果的です。

『マメ』

ガジェット系のアカウントです。顔出しをせずに手元にフォーカスした動画で、ガジェットやアプリケーション、裏技などをわかりやすく紹介しています。スペックなどの情報を短い時間で印象強く伝える技術が参考になります。

競合に差をつけるコンテンツ設計の「人間味」と「具体性」

アルゴリズムを攻略するためには、コンテンツの質が何よりも重要になります。私たちが支援現場で実感しているのは、AIが生成したような無機質な情報羅列では、ユーザーの心は動かないということです。

「これは本当に良いものだ」という書き手の情熱や洞察が伝わるコンテンツこそが、CVR向上の鍵です。例えば、食品であれば単に「美味しい」と伝えるのではなく、「なぜこの時期のこの産地のものが特別に美味しいのか」という背景を深く掘り下げる。美容用品であれば、単なる効果ではなく、「使用感の細かな変化」や「生活がどう変わったか」という感情的な側面を伝えるべきです。

このような「人間味」と「具体的実感」を追求する姿勢こそが、TikTok Shopにおけるエンゲージメントと信頼性を高め、結果的にLTV最大化へと繋がります。

出品前に抑えるべき注意点

カテゴリー拡大は大きなビジネスチャンスですが、一方で、これらの新ジャンルには厳しい販売規制やポリシーが課せられています。特に、医療品や食品など人々の健康に関わる商材を扱う場合、コンプライアンス遵守は企業の信頼性を守る上で最優先事項です。ポリシー違反はアカウント停止という最悪の結果を招きかねません。

カテゴリごとの必須表示事項とライセンス要件

すべてのカテゴリーに共通する大原則は、「誤解を招く記載や表現を避ける」ことです。これに加え、カテゴリーごとに以下の要件を必ず満たす必要があります。

• 生鮮食品・冷凍食品: 商品ラベル画像に、保存期限、有効期限、製造日、原材料などの記載が必要です。また、お客様の安心安全のため、コールドチェーン（低温流通）機能を持つ信頼できる物流サービスとの連携が必須となります。
• コンタクトレンズ・ケア用品: 商品ページに「購入前に処方箋または眼科検査が必要である旨」「医師の指示に従って使用すること」など、消費者の安全を守るための注意事項の表示が必須です。
• 医療用品/ペット用グルーミング用品: カテゴリに応じて、医療機器販売ライセンス、動物医薬部外品製造および流通ライセンスなどの関連書類や画像の提出が求められます。
• 観葉植物・生花・自動車・バイク用部品・物理SIMカード: 多くのケースで、コーポレートセラー（法人セラー）のみが販売可能という出品者制限が設けられています。

誤解を招く表現を徹底排除する運用体制

根拠のない健康効果、不正確な原産国表示、効果・効能の過度な誇張表現は、TikTok Shopのポリシーにおいて最も厳しく罰せられる対象の一つです。

特に動画やライブ配信では、過剰な表現をしがちです。コンテンツを作成・投稿する際は、事実に基づいた内容であることを徹底し、複数人によるチェック体制を構築することが、企業全体の信頼を損なわないための絶対条件です。

販路拡大を加速させる運用支援

TikTok Shopのカテゴリー拡大は、これまで不可能だった専門性の高い商品を、エンゲージメントの高い新しい顧客層に届けるチャンスです。しかし、プラットフォーム特有のアルゴリズム、コンテンツ制作のノウハウ、そして厳格なコンプライアンスへの対応は、EC事業の担当者様にとって大きな負担となることも事実です。

私たちは、1,000社以上のEC支援実績、400社以上のライブコマース支援経験を持つソーシャルコマース領域のプロフェッショナル集団です。

新規参入を成功させ、短期でのCVR向上と継続的なLTV最大化を実現するため、出店戦略の策定から、インフルエンサーとの連携、売れるコンテンツの制作、そしてポリシーを遵守した安定した運用まで、一気通貫でサポートいたします。

本気でTikTok Shopを活用した販路拡大と、新しい売上の柱構築を目指す企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。